MH21-Sロゴ 砂層型メタンハイドレート研究開発

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メタンハイドレート開発の基盤研究

メタンハイドレートを含む地層について知るために

キーポイント
  • 井戸の底から円柱状の堆積物/岩石(地質サンプル)を取得し、実測するとコア データが得られます。コアデータは地下の地質サンプルを実測した貴重な分析データですが、コアを取得した特定の深度のデータ(ポイントデータ)です。
  • 地層の状態を調べる方法には、コア分析の他に物理検層 があります。物理検層は連続して地下情報を取得するのに適した手段ですが、電気抵抗や音速など、センサーを用い取得し計算して求める値なので、間接的な測定データです。
  • コアデータ(ポイントデータ)と物理検層データ(連続データ)をうまく組み合わせることで、地下の状態をより良く把握することができます。

 メタンハイドレート層からガスを生産する際に、どれくらいのガス量が取り出せるかを知るためには、メタンハイドレート自身の物性以外に、メタンハイドレートを含む地層の状態を詳細に知る必要があります。そこで、井戸を掘り物理検層 をおこなうとともに、地下から円柱状の地質サンプル(「コア 」と言う)を取得して、このコアを分析して、地下の情報を得ます。
しかし、メタンハイドレートは低温高圧で安定な物質であるため、地下の状態のメタンハイドレートを含む堆積物を調べて、物性を測定するためには、内部に含まれるメタンハイドレートが分解しないように工夫してコアを取得し、コア分析をしないといけません。

 近年、地下の圧力を保った状態でのコア(保圧コア、あるいは圧力コア)の取得が可能となり、米国地質調査所 、米国ジョージア工科大学 と共に、圧力コア試験に関する共同研究を行いました。これらの研究を通して、メタンハイドレートが分解しない状態でコア分析が可能な解析装置群を日本独自に開発し、コア分析情報の高度化を行いました[1-4]。

図1 圧力コア解析装置(Pressure-core Nondestructive Analysis Tools,:PNATs)

図1 圧力コア解析装置(Pressure-core Nondestructive Analysis Tools,:PNATs)

左上の写真は、圧力コアを保管している容器。写真にあるように、1つの容器で最大1.2m分のコアを保管している。

右上の写真は、力学特性や浸透率を測定するための試験装置。圧力コアが可視化できるように
アクリルのセルを用いており、写真にあるように圧力を保った状態でコアを見ることができる。

下の写真は、各種の測定を行うために圧力コアを切り出すための装置で、弾性波計測などもできる。

 圧力コアを解析する装置群には、圧力コアの内部構造を非破壊で評価する大型X線CT装置や非接触で弾性波計測を行える装置、力学特性評価装置等、様々な装置があります。これらの装置群を総称して、圧力コア解析装置(Pressure-core Nondestructive Analysis Tools,:PNATs)と呼んでいます。なお、コアの分析では、他に大気圧下で分析するものもあります。

 圧力コア解析装置群を用いた分析の一例を示します(図2)。まず、圧力コアの内部構造を把握するためのX線を用い内部構造を計測するとともに、P波・バルク密度分布の計測も行い、その後の各種分析を行う際の指標(インデックスデータ)とします。次に、インデックスデータを参照し、メタンハイドレートが含まれていて割れ目などのないコアが取れる箇所では、メタンハイドレートの含有量によって大きく値が変わる力学・浸透率 の測定を試みます。これらの測定終了後は、メタンハイドレートを分解させ、発生ガス量やガスの種類の測定・分析をします。割れ目などが入っていて力学・浸透率 の測定には不向きな短いコアも、液体窒素を用いて分解を抑える凍結処理等を行い、様々な測定に用います。そのほか粒度、鉱物組成、真密度などの計測も可能な限り行います。
また、本装置群を用いた分析によって精緻な貯留層パラメータの取得が可能になっており、東部南海トラフにて実施された海洋産出試験などの解析・評価にも大きく貢献しています。
このコア分析の技術は、今後もメタンハイドレート研究で欠かさぬツールとしてさらに開発と適用が進んでいくと思われます。

図2 コア分析フロー

図2 コア分析フロー

引用・参考文献

  1. [1] Yoneda, J., Masui, A., Tenma, N., Nagao, J., 2013. Triaxial testing system for pressure core analysis using image processing technique. Rev. Sci. Instrum. 84, 114503.
  2. [2] Yoneda, J., Masui, A., Konno, Y., Jin, Y., Egawa, K., Kida, M., Ito, T., Nagao, J., Tenma, N., 2015, Mechanical behavior of hydrate-bearing pressure core sediments visualized under tri-axial compression. Marine and Petroleum Geology, 66, 451–459.
  3. [3] Jin, Y., Konno, Y., Yoneda, J., Kida, M., Nagao, J., 2016, In situ methane hydrate morphology investigation: natural gas hydrate-bearing sediment recovered from the eastern Nankai Trough area. Energy Fuels 30 (7), 5547–5554.
  4. [4] Yoneda, J., Masui, A., Konno, Y., Jin, Y., Kida, M., Katagiri, J., Nagao, J., Tenma, N., 2017, Pressure-core-based reservoir characterization for geomechanics: Insights from gas hydrate drilling during 2012-2013 at the eastern Nankai Trough, Marine and Petroleum Geology, 86, 1-16.

メタンハイドレート生産シミュレータについて

 分析されたメタンハイドレートを含む地層の状態や物性は、日本が独自に開発したメタンハイドレート生産シミュレータ「MH21-HYDRES」に入力されます。MH21-HYDRESは、メタンハイドレート資源開発専用に開発されており、在来型油ガス田に使用される貯留層シミュレータと異なり以下の機能を有しています。

  1. ガス、水、ハイドレート、氷の4相の取り扱い
  2. メタン、窒素、二酸化炭素、水、メタノール、塩の6成分の取り扱い
  3. 速度論モデルによるハイドレート及び氷の生成・分解挙動計算
  4. ハイドレート及び氷の生成・分解に伴う発熱・吸熱量計算
  5. メタノールや塩の濃度に応じた、MH-メタンガス-水(氷)の3相平衡曲線
  6. 塩分濃度を考慮したメタンの水相への溶解度計算
  7. メタン、窒素及び二酸化炭素からなる混合ハイドレート相の取り扱い
  8. メタンハイドレートや氷など固相の影響を考慮した有効浸透率の計算
  9. 減圧法、熱刺激法、熱掃攻法、インヒビター圧入法、N2/CO2圧入法など各種生産手法の適用

 MH21-HYDRESは、様々な生産手法、すなわち、減圧法、加熱法、インヒビター圧入法、異種ガス圧入法、およびそれらの併用法など、10手法以上の生産手法を開発レベルの規模・時間スケールで生産シミュレーションできるもので、世界的に高い評価を受けています [1-5]。
第1回及び第2回海洋産出試験前にMH21-HYDRESにより予測されたガス・水の産出量やメタンハイドレートの分解到達範囲等のデータは、試験候補地の選定、生産井及びモニタリング井の掘削位置や仕上げ区間の選定、坑内並びに船上機器の設計、作業指針などの作成に活用され、産出試験の成功に大きく寄与しました。その他にも、経済性試算用の生産挙動予測、新規生産手法の検討など幅広い用途で活用されてきています[6-7]。

図3 MH21-HYDRESの概要

図3 MH21-HYDRESの概要

MH21-HYDRESでは、2次元円筒座標系(左図)や3次元直交座標系(右図)での解析が出来るため、図にあるように
室内試験(コア試験)や現場試験(単一坑井試験、フルフィールドスタディ)の評価などに活用されている。

引用・参考文献

  1. [1] M. Kurihara, A. Sato, H. Ouchi, Y. Ohbuchi, Y. Masuda, H. Narita, T. Ebinuma, and T. Fujii, 2009: “Examination on gas producibility from Eastern Nankai Trough methane hydrate resources”, 石油技術協会誌, Vol. 74, No. 4, pp. 311-324
  2. [2] H. Ouchi, M. Kurihara, A. Sato, Y. Masuda, H. Narita, T. Ebinuma, T. Saeki, T. Fujii, T. Kobayashi, and N. Shimoda, 2010: “Construction of 3 dimensional methane hydrate reservoir model in Eastern Nankai Trough and prediction of production test performance”, 石油技術協会誌, Vol. 75, No.1, pp. 72-83
  3. [3] M. Kurihara, A. Sato, K. Funatsu, H. Ouchi, Y. Masuda, H. Narita, and T. Collett, 2011: “Analysis of formation pressure test results in the Mount Elbert methane hydrate reservoir through numerical simulation”, Marine and Petroleum Geology, Vol 28, Issue 2, Feb 2011, pp. 502-516
  4. [4] M. Kurihara, A. Sato, K. Funatsu, H. Ouchi, K. Yamamoto, M. Numasawa, T. Ebinuma, H. Narita, Y. Masuda, S. Dallimore, F. Wright, and D. Ashford, 2010: “Analysis of Production Data for 2007/2008 Mallik Gas Hydrate Production Tests in Canada”, SPE International Oil and Gas Conference and Exhibition in China, 8-10 June, Beijing, China, SPE 132155
  5. [5] Y. Konno, T. Fujii, A. Sato, K. Akamine, M. Naiki, Y. Masuda, K. Yamamoto, and J. Nagao, 2017: “Key Findings of the World's First Offshore Methane Hydrate Production Test off the Coast of Japan: Toward Future Commercial Production”, Energy & Fuels, Vol. 31, No.3, pp. 2607-2616
  6. [6] Y. Konno, Y. Masuda, Y. Hariguchi, M. Kurihara, and H. Ouchi, 2010: “Key Factors for Depressurization-Induced Gas Production from Oceanic Methane Hydrates”, Energy Fuels 24, pp. 1736-1744
  7. [7] Y. Konno, Y. Masuda, K. Akamine, M. Naiki, and J. Nagao, 2016: “Sustainable gas production from methane hydrate reservoirs by the cyclic depressurization method”, Energy Conversion and Management, Vol. 108, pp. 439-445

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