MH21-Sロゴ 砂層型メタンハイドレート研究開発

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ジオハザード(地震と海底地すべり)

メタンハイドレートと地震

キーポイント
  • メタンハイドレートが存在しているのは海底の比較的浅い(数百m以下)地層だが、大地震がおきる深さは海底面下数キロ〜数十キロ、また軟弱なメタンハイドレート層は大きな力を蓄えられないので、メタンハイドレートの分解が地震を引き起こすことは考えられない。
  • 地震が起きても、地下の井戸や、海に浮いている掘削・生産設備には大きな影響はなさそうだが、海底に置かれた機器の安全対策は必要。
  • しかし、井戸や海底の設備が壊れても、メタンハイドレートの分解は自然に止まるので、ガスが海底に漏洩し続けるような事故はおきない。

シェールガス開発で用いられるフラッキング(地下に水を入れてき裂を作る技術、水圧破砕 )によって、人が感じられるような地震が起きることが問題になっています。このような地震を「誘発地震」と言います。メタンハイドレートの研究が行われている東部南海トラフ海域は、予想されている東南海地震の震源地とも近く、そのような場所でメタンハイドレートを分解させたら大地震の引き金になるのではないか、といった懸念もあると思います。MH21の研究においては、安全と環境は最重要事項です。そのため、地震活動との関係も検討しました。

まず言えるのは、メタンハイドレートが存在している深度と、巨大地震を起こすプレート境界の深度はまったく異なる、ということです。

メタンハイドレートが安定に存在していられるのは、海底面から数百メートル以内、2013年と2017年に海洋産出試験が行われた第二渥美海丘付近では300mくらいまででした。しかし、南海トラフの巨大地震を引き起こすと考えられているプレートの境界は、深さ10km以上と、30倍以上深いところにあります。下の図は、第二渥美海丘と南海トラフの海溝の間の地殻構造を示したもので、メタンハイドレートのある深度は、海溝の底から延びるプレート境界の断層 とくらべるとごく浅いところであることがわかると思います。

地震は、地殻にたまったエネルギーが放出されることで発生します。フラッキングで地震が発生するのは、人間がポンプで水を押し込んだエネルギーが地面を揺らすのではなくて、地下の圧力が上がることでき裂・断層の摩擦が小さくなり、地下にたまったエネルギーが放出されやすくなるからです。メタンハイドレートがある地層は、地表付近の土砂に近い堆積物からなっていて壊れやすく、また深さも浅いためかかっている力も小さいので、もともとそれほど大きなエネルギーを貯めておくことができません。

そのため、メタンハイドレートを分解させることで地下に加わったエネルギーが放出されて誘発地震が起きたとしても、ごく小さな規模のものにしかなりません。

第二渥美海丘~南海トラフの地下構造図~

では、自然現象として大地震が起きたらどうなるでしょうか。

地震の揺れの影響は地表付近で大きくなりますので、地底にある井戸に与える影響は比較的小さいと思われます。また、掘削 やガス生産のための設備は大部分が洋上に浮かんでいますので、地震の揺れは伝わりません。しかし、海底にある設備には影響があると考えられます。今後、大規模な開発を行う場合には、海底面設備の耐震性を考慮することが必要になると思われます。

もしも海底の設備がダメージを受けたらどうなるでしょうか。パイプが折れたり、機械が破損したりしたら、生産中のガスが海に放出される恐れがあります。このような事象は、まずは操業現場の安全性を脅かし、さらにガス生産の継続を難しくします。さらに、このことが重大な環境影響を及ぼすかどうかも検討しなければなりません。

メタンハイドレートから生産されるメタンガス自体は、井戸のパイプの中に入っている量程度で多くなければ大部分が海水に溶け込んでしまい、海の生物に与える影響は小さいと考えられます。問題は、ガスが継続的に、大量に放出され続けるかどうかです。

もしも「減圧法 」でガスを生産しているときに海底設備や井戸が壊れてガスが漏出したら、井戸や地層の中はもともと海水よりも圧力が低い状態のため、海底付近の海水がそこに流れ込みます。海の水は温度が低く、圧力が高いので、井戸や地層の中はすぐにハイドレートの安定条件に戻ってしまいます。そのため、メタンハイドレートの分解はすぐに止まってしまいます。ちょうど、自動的にブレーキが踏まれるような仕組みを自然が作っているのです。そのため、機械の被害やガスの漏洩は起こりえますが、それがずっと継続したり、大規模になったりすることはないと考えられています。

減圧法でガスが生産されていれば、メタンハイドレート貯留層は圧力と温度が低下した状態になっている。海底地すべり等で井戸や海底機器が破壊されれば、海底の冷たい海水が井戸の中に流れ込むので、メタンハイドレートが安定な温度・圧力状態に戻り、メタンハイドレートの分解は自動的に止まる。(自然のフェイルセーフ)

減圧法でガスが生産されていれば、メタンハイドレート貯留層は圧力と温度が低下した状態になっている。海底地すべり等で井戸や海底機器が破壊されれば、海底の冷たい海水が井戸の中に流れ込むので、メタンハイドレートが安定な温度・圧力状態に戻り、メタンハイドレートの分解は自動的に止まる。(自然のフェイルセーフ)

メタンハイドレートと海底地すべり

キーポイント
  • 海底の斜面の下でメタンハイドレートが分解すれば、地層の強度が低下したり、分解して発生したガスの圧力の影響があるなど、地層が不安定になり、地すべり発生のリスクは高まる。
  • 大昔に、気候変動による海面の高さの変動などで自然にメタンハイドレートが溶けて大規模な地すべりが起きたのではないかという説もあるが、海底のメタンハイドレートが自然に溶けるには非常に長い年月(数百〜数千年)がかかる。
  • 人工的にメタンハイドレートを分解させた時にどんな影響があるか、事前予測やモニタリングの研究が進められている。

メタンハイドレートの分解による影響でもう一つ考えられるのが海底地すべりです。メタンハイドレートは、ちょうど堆積物の粒子をつなぎとめるセメントのような働きをして地層の強度を高めています。また、メタンハイドレートが分解して生じるガスの圧力は、誘発地震を起こすメカニズムと同じように、地層を不安定にして崩れやすくします。海底が斜面であれば、それで地すべりが生じることは十分考えられます。

実際、海底を調査すると巨大な地すべりの跡がたくさん見られます。ものによっては数百キロメートルの広がりを持つものもあります。このような巨大地すべりのいくつかは、例えば氷河期の始まりの海水準(海面の高さ)の低下によって海底の圧力が下がったり、海流の状況が変わって海底が温められたりしたことにより、メタンハイドレートが溶け出したために起きたのではないか、という説もあります。

ノルウェー沖の北海にあるストレッガという幅290kmもある地すべり地形は、今から8000年ほど前に発生して大津波を引き越したことがわかっていて、周辺で行われたガス田開発の安全性の調査のために集中的に研究が行われました。ちょうどメタンハイドレートが安定するくらいの深度を起点に地すべりが起きているので、この地すべりはなんらかの理由でメタンハイドレートが分解したためではないかと考えられ、様々な検討が行われました。その結果、現在ではメタンハイドレートの影響はあっても限定的だったろうと考えられています。

実際、気候変動によりメタンハイドレートが分解するとしても、それは大変時間のかかるプロセスです。それは、メタンハイドレートの分解が大量の熱エネルギーを消費する反応であるため、周囲から熱を集めるには長い時間がかかるからです。そのため、気候変動の影響も、長い時間をかけて徐々に生じてくるものと考えられます。

また、2013年と2017年の海洋産出試験が行われた第二渥美海丘では、試験場所よりやや西に比較的規模の大きい(差し渡し5kmほど)の地すべり跡があり、また試験地点の浅い深度は地すべりで滑ってきた地層であることもわかったため、集中的な調査と研究を行いました。

その地すべり自体はメタンハイドレートが濃集している深さよりもずっと浅いところで発生していて、メタンハイドレートとの関係はまずないだろう、また、試験地点でメタンハイドレートを分解させても、斜面の安定性への影響はごくわずかだろうという結論でした。しかし、それはあくまでも海洋産出試験の規模のメタンハイドレートを想定したもので、もしもこの地域で商業的な生産を実施して、より広範囲のメタンハイドレート分解が生じるのであれば、再度評価が必要になると考えらてれています。

また、この地すべりはいまだに不安定な状態であり、大きな地震などで再び滑り出す可能性もあるため、将来、パイプライン でガスを輸送するとすると、そのルート選定に影響するなど、資源開発の条件を決める要因として考える必要があることもわかりました。

メタンハイドレート海洋産出試験が行われた第二渥美海丘の西側に広がる地すべりの跡

メタンハイドレート海洋産出試験が行われた第二渥美海丘の西側に広がる地すべりの跡。海洋産出試験は、背後の海丘の高まりで実施された。海丘の隆起と、手前の安乗口海底谷の侵食が、長い時間の間に繰り返し自然の地すべりを引き起こしている。

地すべりで地盤が失われた跡

海底地すべりの跡を示す地震探査断面。メタンハイドレートの広がりを示すBSRと、海洋産出試験が行われたメタンハイドレート濃集帯は、地すべりの基底よりも深いところに存在する。第二渥美海丘の西側に広がる。

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