長期陸上産出試験
米国エネルギー省(DOE)傘下のエネルギー技術研究所(NETL)と協働で、アラスカ州ノーススロープのプルドーベイ鉱区において、メタンハイドレートの長期陸上産出試験を実施しています。産出試験では、長期生産挙動データの取得に加えて、技術的課題の解決策の検証、長期生産に伴う課題の抽出等の試験目的達成を目指します。
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産出試験を開始(2023年9月)
2023年2月末に掘削作業を完了してから、ガス生産に向けた地上試験設備設置作業等の試験開始に向けた準備作業を進めて参りましたが、9月19日(現地時間)、PTW-1の水中電動ポンプを動かし始めたことにより、産出試験を開始しました。その後、10月24日(現地時間)には、B層のメタンハイドレート分解によるガスの生産が確認されています。
今後は、長期の生産を続けることを目指し、各坑井(GDW, PTW-1, PTW-2, STW)の坑内に設置されている温度や圧力等のセンサーにて地層の変化を観測、メタンハイドレートの生産挙動を理解し日本における商業化に向けた研究開発に活用していきます。
なお、生産されたガスは産出試験施設で自家消費することとしています。メタンハイドレートから生産されたメタンガスをエネルギー源として活用する計画は世界で初めての取り組みとなります。
地上試験設備の設置作業(2023年6月中下旬)
ノーススロープの試験現場では、産出試験の開始に向けて、地上試験設備の設置作業が継続して行われています。
長期陸上産出試験のプロジェクトは、日米間(DOE/NETLおよびJOGMEC)で運営委員会(Steering Committee)を設置し、プロジェクトの方針などを協議・合意しながら遂行しています。6月後半にアンカレジで運営委員会が日米双方の関係者参加の下開催されました。また、運営委員会メンバー等がノーススロープにある試験現場を訪問し、試験開始に向けた準備状況の確認を行いました。
試験に利用する掘削済みの坑井の上にはウェルハウスが設置され、日米の国旗も掲揚されました。
MH21-Sは2018年12月に試掘井を掘削し、メタンハイドレートの賦存を確認しました。試掘現場エリアのデッドホースに雑貨店があり、外壁に訪問者がステッカーを貼っていくようです。試掘調査をした頃の写真と比べると、ステッカーの数がはっきりと増えていて、時間の流れを感じます。
坑井間地震波探査の実施(2023年6月上旬)
6月上旬、MH21-Sメンバーの物理探査技術者がノーススロープの試験現場へ行き、坑井間地震波探査(Cross-Well-Tomography: CWT)を実施しました。産出試験開始前にCWTを実施することで、初期状態のメタンハイドレート層の物性や不均質性を検討するためのデータが取得できます。また、ガス産出試験後に再度データを取得して試験前のデータと比較することにより、ガス生産によりメタンハイドレート層に生じた物性の変化を抽出できます。試験現場の坑井に設置した光ファイバー(Distributed Acoustic Sensing:DAS)により充実したデータの受振がなされました。また、坑井間の距離が比較的短いこともあり、高解像度のデータが取得できています。
ノーススロープの試験現場へは、空路で東京からアンカレジ空港を経由し、デッドホース空港へ移動、その先は車となります。東京からアンカレジへは直行便がないため米国本土を経由する必要があり、またアンカレジからデッドホースまでの便は限られているため、試験現場までは1日を優に超える長旅となります。
6月上旬のアンカレジは15℃前後でしたが、北へ1,000キロメートル以上離れたノーススロープは0℃前後と気温差も相当ありました。夜中でも太陽が沈まない白夜の試験現場では、引き続き地上設備設置作業が行われており、同時並行で今回の坑井間地震波探査が実施されました。
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2023年6月上旬の試験現場
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震源
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ワイヤーラインによるデータ取得井(GDW)への震源ツールの降下(1)
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ワイヤーラインによるデータ取得井(GDW)への震源ツールの降下(2)
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データ取得についての打合せ
コア試料の分析作業
2022年10~11月の掘削時に取得したコア試料は、米国側と日本側の各々で詳細な分析が続けられています。
2023年4月、産業技術総合研究所北海道センターに、圧力容器に入った保圧コアを載せたコンテナが到着しました。同センターでは、水・ガスの浸透特性やハイドレート結晶特性等の評価作業を行っています。直径5 cm×長さ10 cmのコア試料を詳細に分析するには、1~2週間程度かかるため、全てのコア試料の分析を終え貯留層全体を正確に把握するには約1年の期間が必要です。これらの分析結果はハイドレート貯留層の物理化学特性情報の確度を高め、長期的なガス生産挙動の予測等に大きく寄与することが期待されています。
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産業技術総合研究所北海道センターに保圧コアを載せたコンテナが到着(左後ろに見えるのは札幌ドーム)
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低温室に運ばれ、保圧ラインに接続された1.2m×7本の圧力容器
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圧力容器をマニピュレーターに接続し、各種分析のために保圧下で切断する
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マニピュレーター内に引き込まれた保圧コアの先端。内径約5cmのプラスチックチューブの中に灰色の堆積物が観察できる。アクリル窓越しに写真撮影しているが、内部は水圧10MPaを保持している
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減圧してメタンハイドレートが分解し終わったコアから、粒度分析等のためにサブサンプリングを行う
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堆積物の鉱物組成を評価するためのX線回折分析
地上試験設備設置作業(2023年3月-4月初旬)
坑井基地では、生産水の処理量を減らすために水を蒸発させる大型設備(Evaporator)、生産したガスを燃料ガスとして使用するための発電機、敷地内を車両などが安全に通行するために配管を橋のように設置したパイプブリッジ、その他各種地上試験設備の設置作業を鋭意進めています。
2022年より長期陸上産出試験に向けた現場作業が本格化していますが、「Alaska Safety Alliance」による安全講習を受講しないとノーススロープの作業現場には入れません。MH21-Sメンバーも現場に出張する前には、同講習を修了した上で、現地では別途オペレーターによる安全講習を受講しています。安全講習では、作業自体の危険性を理解するための説明にとどまらず、坑井基地から外れて周囲のツンドラに立ち入ってはいけない等の具体的なルールの説明もあり、環境保全に関する厳しい規制等が周知されます。
また、冬季に作業現場に立ち入る場合は、全身を覆う防寒着の持参・装着が義務付けられており、現場で働く人達が安全かつ効率的に作業できるよう、現地の気温・風速・体感温度が毎日報告されます。現場のあちこちに掲示されている「Wind Chill Chart」では、外気温・風速に加え凍傷になるまでの目安時間が一目で確認できます。
4月は、3月に比べ平均気温も10℃ほど上がるものの、最低気温は一般的な冷凍庫内の温度(-18℃前後)と変わりません。

出典: National Weather Service ホームページより(2023/4/23閲覧)
https://www.weather.gov/safety/cold-wind-chill-chart
生産井(PTW-1)の仕上げ作業を含め3坑井の掘削完了(2023年2月)
生産井(PTW-1)では、メタンハイドレート層からのガス生産に必要な坑内機器や装置を設置する仕上げ作業として、ガス生産過程における坑内での再ハイドレート化を防止するための坑内ヒーターや、電動水中ポンプ、出砂対策装置等の降管・設置作業を行いました。2022年10月9日(現地時間)から開始した3坑井(データ取得井と生産井2坑)の掘削作業は、143日間大きな事故等が発生することなく、2023年2月28日(現地時間)に完了し、いずれの坑井においても概ね予想通りの深度で、想定通りの厚さのメタンハイドレート層を確認できました。2月初旬には寒波により-35℃を下回る寒さとなり、中旬には、-29~-37℃とさらに厳しい寒さが続く中の作業となりました。
引き続き、地上試験設備の設置作業を進め、ガス生産開始に向け鋭意作業を進めています。

左側3坑が今回掘削した坑井。試掘井は2018年に掘削済み。
生産井(PTW-1)の掘削作業(2023年1月中下旬)
2022年12月末から開始した生産井(PTW-1)の掘削作業を続けるとともに、地上試験設備の一部設置作業など早期のガス生産開始に向け並行してできる作業を可能な限り進めています。激しい吹雪のため屋外での作業が困難な日もありましたが、現場の安全基準に従い状況に応じて待機などしつつ、現場作業は継続しています。 また、ノーススロープの掘削現場以外でも、昨年10月の掘削作業開始前から、アンカレジにあるオペレーターのオフィスにMH21-Sメンバーが交替で常駐し、米国側と協働で作業状況のタイムリーな把握と必要に応じて米国側との協議などを行っています。
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屋外での作業(溶接等)は風よけを設置して行っている
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基地周辺に水を撒き、氷を厚くすることで地面の強度をあげ、作業場を広げている
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地下に循環させる泥水を冷やす装置の一部。泥水が通るフィルターのつまりを確認している
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暴噴防止装置(BOP:Blow Out Preventer)の設置作業
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ノーススロープの現場に近いDeadhorse Airport(2023年1月下旬、朝8時頃)
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アンカレジの街並み
生産井(PTW-2)の掘削終了と生産井(PTW-1)の掘削作業(2022年12月初旬-2023年1月中旬)
掘削現場では、年末年始も24時間休みなく作業が続けられました。
ケーシングパイプ外側に温度・圧力・ひずみ等の各データを取得するためのセンサーケーブルを固定しながら坑内に下げていき、センサーケーブルの動作確認を行う等の作業を実施し、生産井(PTW-2)の掘削作業が終わりました。続いて生産井(PTW-1)の掘削を2022年12月末から開始しました。
また、産出試験をできるだけ早く開始できるようにするため、地上試験設備の一部の設置作業も掘削作業と並行して進めています。
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ケーシング(VIC:Vacuum Insulated Casing)の接続
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センサーケーブルの設置
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寒冷地対応テント内でミーティング
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地上試験設備(Module 5 (Desander module))の設置
データ取得井(GDW)の掘削終了と生産井(PTW-2)の掘削(2022年11月-12月中旬)
データ取得井(GDW)での圧力コアリング作業で取得されたコアは、日米ジョイントチームにより現地で分析を行ったあと、各機関に送られ、さらに詳細な分析を行います。
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取得したコア(メタンハイドレートが入っている)
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保圧コアを入れている圧力容器内を減圧して、メタンハイドレートの分解ガス量の計測とガス採取をしている
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保圧コアが入ったインナーバーレルをPCATS(Pressure Core Analysis and Transfer System)へ移動
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回収したコアを掘削リグから寒冷地対応テントへ移動
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MH21-S,USGS, Geotekからなる日米ジョイントチーム
11月20日(現地時間)にデータ取得井(GDW)の掘削を終え、11月24日より生産井(Production Test Well:PTW-2)の掘削を開始しました。現地の気温は-30℃を下回る日もあり、凍てつく寒さに加え、この時期のノーススロープでは一日中太陽は昇らず、空がうっすら明るむのみとなります。
圧力コアリング作業実施(2022年10月下旬~11月上旬)
10月下旬から11月上旬にかけて圧力コアリング(注)の作業を実施しました。取得されたコア(円柱状の地質サンプル)を分析することによって、メタンハイドレートの胚胎量の推定や浸透性、力学的な特性等の地層性状の把握に資する有益な情報が得られることが期待されます。
現場での作業は、昼夜問わず続けられています。また、関連法規に基づき、坑口に取り付けてある暴噴防止装置(BOP)のテストを定期的に行うなど、安全第一で進めています。
11月初旬でも現場は−20℃を下回る日もあり、今後は寒さが一段と厳しくなっていきますが、掘削作業は続けられていきます。
(注)圧力コアリング:地層に含まれるメタンハイドレートを分解させないよう、圧力を保持したままの状態でコアを回収するコアリング手法。詳細は、こちらをご参照ください(地下のメタンハイドレートをそのまま取りだす~圧力コアリング)。
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なかなか見ることのできない幻日(注2)(10月25日)
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雪がふぶく中、坑井基地とキャンプ(宿泊)地を移動するシャトルバス(10月下旬)
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坑井基地から見たキャンプ地
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掘削同時検層(LWD)機器の接続と締めつけ作業
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朝9時前でも真っ暗(11月初旬)
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圧力コアリング装置用ワイヤラインツール
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圧力コアリング作業
注2:太陽の両側にあらわれる光輝の強い点。空中の氷晶による光の屈折でおこる暈(かさ)の一種。
白色または薄い色彩を帯びる。(広辞苑より)
掘削作業開始(2022年10月9日(現地時間))
プルード―ベイ鉱区は、夏季は一面湿地帯となるエリアですが、産出試験を実施する場所は既設の道路や坑井基地として使用可能な砂利を敷いた敷地があり、年間を通して作業が継続できます。
陸上産出試験のオペレータであるASRC Energy Services Alaska社が、当該鉱区で掘削作業を実施するための許認可をアラスカ天然資源局から8月に取得し、現場の整地作業を始め、掘削のための準備作業を着々と進めてきました。
坑井基地の様子
(8月末)坑井基地で建設中の寒冷地対応の構造物。この中で各種作業を行う
坑井基地に向けて移動中の掘削リグ。リグ自体に大きなタイヤがついていて、自走可能。
(9月中旬)坑井基地での掘削準備作業の様子
(9月下旬)
10月9日(日)(現地時間)にデータ取得井(Geo Data Well(GDW))の掘削が開始され、現在は24時間体制で掘削作業が継続されています。 ノーススロープでは雪が降り始め、気温は氷点下とすでに日本の真冬並みの寒さですが、今後さらに厳しい環境になっていきます。