解決すべき課題と目標
旧MH21コンソーシアムが実施したフェーズ1〜3(2001年度〜2018年度)は、高い飽和率でメタンハイドレートを含む砂層である「濃集帯」の発見や、エネルギー効率が高いと考えられる「減圧法」を海洋で実現してガスを生産した世界初の「海洋産出試験」の実施など、多くの成果をあげましたが、メタンハイドレートの商業化にはまだ多くの課題があることがわかりました。
そのため、これまでの成果と課題を分析するとともに、開発システム(ガスの生産に必要な、坑井、海底・洋上機器、ガス輸送手段などの全体システム)を想定して経済性評価を実施しました。その結果から、メタンハイドレートの商業化のためには、それぞれの坑井から、安定的に十分な量のガスが生産されること(生産技術に関する課題)と、十分な原始資源量(含まれるガスの総量)を有する濃集帯が存在すること(有望濃集帯の抽出に関する課題)が必要であることがわかりました。
フェーズ4では、次フェーズの海洋産出試験等の次のステップに進むために、これらの課題を解決すべく、定量的な目標をもって研究開発に臨みます。
MH21コンソーシアムが実施した経済性評価の結果
メタンハイドレートの経済性は、主に「濃集帯の原始資源量」と、「1坑井あたりの生産レート(日産生産量)」から定まる
ことがわかりました。経済性の条件は、その時のガス価(1mmbtu(100万英国熱量単位)=天然ガス約28立方メートルあたり
何ドルか)によって変わります。
1.生産技術に関する課題と目標
第2回海洋産出試験では、生産量が想定とは異なり安定的に増加しないなど、新たに課題が生じました。このため、これまでの産出試験の取得データを見直し、生産の安定性阻害要因を抽出するとともに、その要因に合わせた解決策や大幅な生産量の向上、コスト低減に向けた検討を行う必要があります。
生産挙動予測や技術的可採量評価(注1)に係る技術は、生産システム(注2)の設計や経済性評価を行う上で必要不可欠なものですが、これまで実施された陸上・海洋の産出試験においては、数値シミュレーションによる事前の予測と実際の結果にかい離が生じており、その理由が明らかになっていません。このため、それらのかい離の原因を追及し、技術改良を行うことによって、本技術の信頼性向上を図る必要があります。また、これまでに実施された海洋産出試験は最長でも数週間であり、長期安定生産等に関する十分なデータが得られておらず、また、長期安定生産等に関する技術も実証されていないことから、より長期の産出試験が必要です。
フェーズ4では、海洋において1坑井あたり日産5万立方メートル(プロジェクト期間の平均値)が達成できる見込みがあることを示せることを目標として、生産挙動予測技術や生産技術の向上と、長期陸上産出試験での検証を実施する計画です。
2.有望濃集帯の抽出に関する課題
有望濃集帯(注3)を抽出するためには、最適な抽出条件を追求するとともに、既存の探査データの解析や三次元地震探査による探査データの取得・解析等が必要です。また、それらの結果を踏まえ、次フェーズ海洋産出試験の実施に向けた試験海域候補地点抽出し、それらの海域での試掘(簡易生産実験を含む)を準備・実施する必要があります。
フェーズ4では、海洋産出試験に適した有望濃集帯を抽出することを目標とし、その経済性の観点でその濃集帯が100億立方メートル以上の原始資源量を有すること、またその場所の環境影響の検討がなされていることを条件としています。
注1 技術的可採量・・・可採埋蔵量は、技術的・経済的に採取可能な量を示し、その値は評価時点で適用可能な技術、及びガス価格を含む経済的な条件によって変動する。メタンハイドレートの場合、現状で経済性を評価するのが難しいため、ある程度現実的な技術で採取可能な量を技術的可採量という。
注2 生産システム・・・メタンハイドレートからのガス生産に関わる一連の設備・施設群。
注3 有望濃集帯・・・メタンハイドレートを高い飽和率で胚胎する砂層が、資源としての価値を持つ一定の厚さと広がりをもって存在する構造を「メタンハイドレート濃集帯」と呼ぶ。その中で、技術的、経済的、及びその他の条件により、将来的に資源開発の対象となる可能性があり、研究開発の対象として特に価値が高いと判断されるものを「有望濃集帯」と呼ぶ。なお、地震探査のデータのみしか得られない段階では、資源の存在の確証がなく、量を評価するのに必要な情報も不足なため、「有望濃集帯候補」とする。
3.長期的にとりくむ課題
以上の主要な課題に加えて、環境影響評価に、経済性評価など商業化に必要な研究開発を継続するとともに、新しい技術を積極的に取り込んでいく計画です。
フェーズ4の課題、実施内容と目標