フェーズ1の結果概要と残された課題

フェーズ1の概要

経済産業省が平成13年度に策定した「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」におけるフェーズ1を遂行するため、資源エネルギー庁から業務を受託した、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構、(独)産業技術総合研究所、(財)エンジニアリング振興協会の3者が、プロジェクトリーダー田中彰一東京大学名誉教授の下で、メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム(MH21研究コンソーシアム)を組織した。

 「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」には、6項目の目標を達成するために必要な技術開発を、5分野(探査分野、モデリング分野、フィールド産出試験、開発分野、環境分野)に分けて記載されている。これまでに実施されたフェーズ1における研究成果の概要は、以下のとおりである。

<探査分野>

東部南海トラフ海域をモデル海域として、基礎物理探査、基礎試錐を通じた詳細な調査を実施した。その結果、東部南海トラフ海域のメタンハイドレートは、タービダイト砂泥互層の砂層に賦存するタイプが主体であり、かつメタンハイドレート濃集帯が存在することを明らかにした。

また、地震探査データからメタンハイドレート濃集帯を摘出する手法を確立し、東部南海トラフ海域のメタンハイドレート層のメタンガス原始資源量を確率論的手法によって算定した。また、東部南海トラフ海域の16箇所のメタンハイドレート濃集帯について、原始資源量、貯留層特性、海底面の環境等について検討を行い、海洋産出試験候補海域として3箇所を選定した。

東部南海トラフ以外の日本周辺海域においては、東部南海トラフで得られた知見を踏まえて、既存地震探査データを元にBSR(Bottom Simulating Reflector:海底擬似反射面)分布の見直しを行った。

<モデリング分野>

メタンハイドレート層の温度・圧力条件に応じて、減圧法、加熱法及びそれらの併用法など種々の生産手法で解析が可能な、メタンハイドレート資源に対する汎用の生産シミュレータ(MH21-HYDRES)を開発した。また、メタンハイドレートが賦存する原位置条件での物性、分解特性試験技術を開発し、東部南海トラフ海域の貯留層特性を評価した。  

本シミュレータをもとに、東部南海トラフに最適な生産手法を検討したところ、主たる手法として「減圧法」が効果的であることが分かった。減圧法については、第2回陸上産出試験において、生産シミュレータの事前予測とほぼ一致する結果(ガス、水生産量など)が得られ実証がなされた。

<フィールド産出試験>

フィールドでの生産手法の実証を行うため、カナダ北極圏の永久凍土下に存在する砂層に胚胎するメタンハイドレートに対して2回の産出試験を実施した。

平成14年3月に行った第1回陸上産出試験では、「温水循環法」により、世界で初めてメタンハイドレート層よりメタンガスを生産した(生産期間5日間、累計生産量470m3)が、採収法の観点からは、エネルギー効率や生産の継続性について課題を残した。また、MDTによる減圧過程の観察を行い、ガスの発生を確認したほか、圧力解析の結果などから、メタンハイドレート層が浸透性を有することが確認された。

その後、東部南海トラフ海域のメタンハイドレート層の詳細調査と室内実験結果を踏まえて臨んだ、平成20年3月の第2回陸上産出試験(2年目)では、世界で初めて「減圧法」による連続生産に成功(生産期間6日間、累計生産量13,000m3)し、減圧法が生産手法として有効であることを実証した。この産出試験ではサンドスクリーンを設置して出砂障害の軽減が図られた。

<開発分野>

基礎試錐「東海沖~熊野灘」および陸上産出試験の結果等を踏まえ、海洋産出試験を目的とした坑井計画の概念を検討し、同検討を通じてフェーズ2における海洋産出試験の実施に向けた技術課題の抽出(大水深浅層に対するセメンチング・坑井仕上げ、緊急切り離しを考慮した減圧法を適用する坑内システムの構築等)を実施した。

また、東部南海トラフ海域の選択されたメタンハイドレート資源フィールドに対して、生産シミュレータおよび経済性評価計算プログラムを用いて経済性検討を行った。その結果、今後の研究継続により経済性が期待できる可能性が示唆された。また、経済性向上の観点からの技術課題の抽出(生産量向上、回収率向上等)を行った。

<環境分野>

メタンハイドレート開発における環境影響を予測するために必要となる基礎情報の整理収集および要素技術の研究を実施した。

メタンハイドレート賦存海域のベース情報を把握するための海域環境調査と基礎試錐コア試料を用いた海底堆積層の地盤物性の把握を行った。また、メタンハイドレート開発において特に考慮すべき環境因子としてメタン漏洩と地盤変形を抽出し、それらの挙動を予測するモデルの構築と、海洋での生産試験においてリアルタイムにモニタリングできるセンサー類の開発を行った。

プロジェクト評価

平成17年度と平成20年度には、経済産業省技術評価指針に基づき、外部有識者によるプロジェクト評価が行われた。このうち、フェーズ1の終了時である平成20年度の評価では、フェーズ2へ進むことが妥当であるとの提言を受けている。詳細については、下記の産業構造審議会産業技術分科会評価小委員会(第25回)の配付資料を参照のこと。
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g90128a05j.pdf

フェーズ1の成果を踏まえた今後の課題

フェーズ1の研究により、上述したような成果が得られた一方で、将来の商業的産出に向けて多くの技術課題も残っている。

  1. 東部南海トラフ以外の海域でのメタンハイドレート賦存状況の評価
  2. フェーズ1では、東部南海トラフ海域においてメタンハイドレート賦存状況の把握を行い、メタンハイドレート濃集帯を抽出する技術等を確立した。

    これら東部南海トラフでの資源量評価で得られた知見等を踏まえ、東部南海トラフ以外の我が国周辺海域に対象を拡大して、メタンハイドレート濃集帯の分布推定等を進める必要がある。

  3. より長期にわたる産出試験の実施
  4. カナダ陸上での産出試験において減圧法によりメタンハイドレート層からメタンガスの連続生産に成功したが、その期間は6日間となっている。

    このため、より長期にわたる産出試験を行い、メタンハイドレート層からのメタンガス生産の長期生産性、生産挙動、生産障害等について更に検証する必要がある。

  5. 海洋における産出試験の実施
  6. 我が国においてはメタンハイドレート資源が周辺海域にのみ賦存していることから、海洋におけるメタンハイドレート層からの安全かつ経済的な生産を可能とする技術の整備が不可欠であり、このため海洋における産出試験が必須である。

    大水深浅層を対象とした厳しい環境での試験となることから、必要な技術課題の整備、環境影響の事前評価等を踏まえ、安全に行うための試験計画を立案し、我が国近海のメタンハイドレート層を対象とした採収法と生産技術の検証を行うとともに、技術課題を抽出する必要がある。

  7. 生産手法の高度化に必要な技術開発や開発システムの最適化の検討
  8. メタンハイドレート層からメタンガスを経済的に生産回収するためには、フィールドでの産出試験に加え、最終的に経済性を確保するためのより効率的な生産を可能とする技術の高度化に向けた取り組みが必要である。

    このため、メタンハイドレート層からのメタンガスの生産性と回収率を向上させるための採収法・生産技術の開発や、経済性向上のための掘削・開発システムの検討を行う必要がある。

  9. 環境影響の把握と評価手法の確立
  10. メタンハイドレートの資源開発において海底及び坑井周辺からのメタン漏洩、地すべりを含む海底面の不安定現象等によって生じる環境影響が想定されるが、具体的な環境影響評価手法は確立されていない。

    一方で、フェーズ1の研究によってメタンハイドレート濃集帯に関する地質的な知見が得られ、また生産手法にも方向性が得られたことから、ハイドレート資源開発時の環境影響に関して具体的なリスクの検討が実施できるようになった。

    このため、海洋産出試験における環境リスクの抽出・特性把握・対応策の検討と、それらに必要な海底環境に関するデータの取得を行い、実際に環境影響をモニタリングすることで環境影響を把握し、商業生産をめざして環境影響評価手法を確立する必要がある。