メタンハイドレートの開発と経済性

メタンハイドレート開発のイメージ

メタンハイドレート開発はまだ商業的開発の段階ではありませんが、開発対象となるメタンハイドレート層の賦存状況、そして、課題となっている生産手法が分かってきたことから、開発のイメージが見えてきました。

復習すると。

開発対象となるメタンハイドレート層は「砂質層孔隙充填型メタンハイドレート層」で構成される「メタンハイドレート濃集帯」です。

また、生産手法は「減圧法を主体とする生産手法」です。

メタンハイドレート濃集帯の賦存状況は、石油・天然ガス鉱床の賦存状況に似ています。石油や天然ガスの賦存状況は様々ありますが、メインとなって開発されている鉱床はメタンハイドレート濃集帯と同じく砂層の砂粒と砂粒の間に存在する石油や天然ガスです。

すなわち、孔隙充填型です。石油や天然ガスは地下の空洞の中にプールの水のように存在していると考えている方もいらっしゃいますが、これは違います。

減圧法についてはメタンハイドレート特有の生産手法と間違えられることが多いのですが、石油・天然ガスの生産手法も基本的には減圧法です。

石油・天然ガスは深部に存在しており、上に存在する地層の重さをうけて高圧化しています。そこに井戸を掘るため石油や天然ガスのような流体は井戸を通って陸上や海上まであがってくるのです。これを自噴といいます。

例えるならば、炭酸清涼飲料水の缶を開けたときに炭酸ガスが噴き出してくるのと同じです。缶の中は周りの圧力より少しだけ高圧化させているため、缶を開けるだけで減圧され、炭酸ガスが噴き出してくるのです。

石油・天然ガスの場合も井戸を掘っただけで減圧法になっているのです。加えて、石油・天然ガスの場合、生産効率を向上させるために、人工的に少しだけ減圧を行ってあげます。

その減圧の度合い(ドローダウン率)はせいぜい10-20%程度です。しかし、メタンハイドレートの場合、ドローダウン率を60-70%以上にしなければなりません。したがって、メタンハイドレート生産における減圧法を厳密に言えば「強減圧法」になります。

開発対象となるメタンハイドレートの賦存状況、そして、生産手法が同じということで、生産にかかる施設・機器(開発システム)は既存のシステムの適用および少しの改良で対応可能であることが分かってきました。

開発システムが既存のシステムで対応可能であるということは、メタンハイドレートの生産とは、メタンハイドレートが地層中で分解した後は石油・天然ガスの開発とほぼ同じということになります。

メタンハイドレート開発特有の条件

しかしながら、石油・天然ガス開発とメタンハイドレート開発では異なるものも少なくありません。代表的なものを以下に挙げます。

  1. 石油・天然ガスは井戸を掘れば自噴するが、メタンハイドレートは地層中で分解させるという「ひと手間」が必要であり、開発システムの中にその仕組みを埋め込む必要がある。
  2. 石油・天然ガスは、地面下もしくは海底面下2,000-4,000mという深部に存在するが、海洋のメタンハイドレートは海底面から海底面下500m 程度までの浅部に存在する。
  3. よって、石油・天然ガスはすでに固結した地層の中に存在することが多いが、メタンハイドレート層の場合、未固結の地層の中に存在することが多い。未固結層特有の生産障害が起こる可能性がある。
  4. 減圧法で生産した場合、現在の計算結果では、1日に生産できるメタンガス生産量が天然ガスの日生産量(平均数10万m3以上)に比べ、ひと桁低いと推測されている(現在の推測では単純減圧方で5万m3程度)。
  5. メタンハイドレートの分解は吸熱反応のため、生産を続けると周辺の地層温度が低下し、生産量が減退していく。

石油・天然ガス開発と大きく違うのは、井戸の数が多いことです。これは、メタンハイドレートの生産量が低いため井戸数を多くすることで帳尻を合わせているということです。

井戸数が多くなると井戸を掘削する費用が高くなるように感じますが、メタンハイドレート層は石油や天然ガスに比べて浅部に存在するため1本の井戸を掘る費用が安くなります。

石油・天然ガスの場合、1本の井戸を掘削するのに1カ月近くかかりますが、メタンハイドレート層の掘削は数日で掘削することができます。したがって、井戸数が多くなったからと言って、石油・天然ガス開発より掘削費用が必ずしも大幅に増えるわけではありません。

多数の坑井から生産されるメタンガスは海底面に設置されたマニフォールドというところに集められ、そして海上の生産施設に送られる、というのが現在の開発イメージです。

経済性評価

「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」の目的は、「メタンハイドレート開発技術を確立し、民間石油開発会社にその技術を受け渡す」ことです。

民間会社がメタンハイドレート開発を行う以上、経済性を考えることは必須です。すなわち、「利益があがるか?あがらないか?」が問題となります。

開発対象となるメタンハイドレート層が決まり、生産手法もほぼ決定し、開発のイメージも見えてきた現在ですが、精度の高い経済性評価を行うにはまだまだ仮定が多すぎます。

しかし、まるっきり経済性の見えない開発を国のプロジェクトとして続けることはできません。よって、フェーズ1の最後において、現段階の仮定における経済性がどの程度なのか?ということを計算しました。

フェーズ1の最後に行った経済性評価の流れは以下のとおりです。

  1. α-1濃集帯というメタンハイドレート濃集帯をモデルとする。
  2. α-1濃集帯の地質環境、メタンハイドレート賦存環境を既存データから推測する(貯留層評価)。
  3. 推測されたメタンハイドレート賦存環境を日本が独自に開発した生産シミュレータMH21-HYDRESに入力し、仮定した生産手法のもと開発規模・時間スケールでの生産シミュレーションを行う。
  4. 日本が独自に開発したメタンハイドレート用経済性評価プログラム「MH- ECONOMICS BM」に各種条件を与え、様々な開発シナリオをシミュレーションして、経済性がもっともよい開発シナリオを決定する。

下図はα-1濃集帯に対して実施した現時点で考えられるもっとも経済的な経済性評価結果です。

経済性評価結果
経済性評価結果

生産開始を2021年に設定し、生産期間を15年としています。

結果としては、2004年のガス価が23.8円/m3に比べ、生産期間中のガス生産価格は46円/m3となりました。ただし、2021年以降のガス価格がいくらになっているのかが分かりません。

この計算ではガス価上昇率を3.88%/年に設定しています。そうなると、2021年から15年間の平均ガス価は56円/m3になり、生産原価のほうが低くなります。

もちろん、ここまでの計算は仮定が多いことなので、これですぐ、「メタンハイドレート開発はいける!」とは考えられません。現在、2004年周辺のガス価上昇率を考えています。

ご存じの通り、2007年頃から始まった原油価格の上昇は予想をはるかに超えた上昇率でした。あのような上昇率はイメージしにくいので2004年頃の値を使っているのが上記の計算です。

何が起こるのかが分からない状態での仮定計算ということを忘れないでください。

参考までに付記すると、2008年におけるLNGの輸入価格は約40円/m3です。しかし、2008年は原油価格上昇の影響でスポット月平均約70円/m3になったこともありました。

生産原価については以下の計算結果が出ています。

メタンハイドレート開発の生産原価(現時点での推測)
メタンハイドレート開発の生産原価(現時点での推測)

2007年頃の油価高騰が経済性に与える影響がお分かりになると思います。

「原油価格が上がれば、メタンハイドレート開発の可能性が高くなる!」という噂をよく聞きますが、単純にそうは言い切れないことが分かります。

原油価格の上昇により人件費、燃料費などが高騰し、結局は、操業費(OPEX: Operation Expenditure)建設コストを含む施設費(CAPEX: Capital Expenditure)が上昇するため、原油価格の上昇は経済性によい影響を与えますが、通常開発費も上昇するため期待するほどには良化しません。

このように経済性評価は様々なパラメータが絡み合っており、ひとつのパラメータだけでメタンハイドレート開発ができるか否かを議論することはできないことにご注意ください。

「インフレ率」や「為替レート」の変動にも大きく影響を受けることにもご注意ください。

「経済性解析結果」の中にIRR、NPV、Payout Timeという聞きなれない言葉がありますのでご説明します。

IRRは「Internal Rate of Return」の略であり、日本語では「内部利益率」となります。IRRは、投資期間を通じた投資額累計の現在価値と、収益額の現在価値の累計が等しくなる利率(割引率)を示しています。

「IRRが何%以上であれば開発できるのか?」は、会社や国の方針によって違うので一概には言えません。石油・天然ガス開発では10-20%が目安とされています。不確実性を伴うプロジェクトでは下振れリスクを織り込んで20%以上は欲しいところです。

NPVは「Net Present Value」の略であり、日本語では「正味現在価値」を示します。NPVは、投資に対する判断の指標で、将来の投資に対する収入の現在価値から投資額を差し引いたものです。大まかにいえば、正の数値であれば黒字を示します。この数字も「開発するか否か」を決定するには重要なパラメータとなります。

Payout Timeとは、初期費用を何年で返せるかを示しています。家やマンションを購入する場合、何年ローンにするかで悩まれるかと思いますが、それとほぼ同じであり、「家を買う」、すなわち、「開発するか否か」を決めるひとつのパラメータとなります。

上記で説明した経済性評価結果では、非常に仮定が多いものの、メタンハイドレート開発は「箸にも棒にもかからない」プロジェクトではなく、これからの技術革新によって開発可能性があることを示していると考えます。

この結果により「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」はフェーズ2に進むことを許されました。ただし、繰り返しになりますが、我が国周辺での海洋産出試験が行われていない現在では、仮定の多い計算だということです。

フェーズ2への課題

経済性評価を行った理由はもうひとつあります。それは経済性に関する感度分析を行うことです。

経済性の感度分析とは、「どの技術、どのパラメータを向上させれば経済性が効率よく上昇するか?」を分析することです。

経済性計算プログラムのMH-ECONOMICS BMのパラメータをひとつひとつ変化させ、どのパラメータを向上させれば経済性が効率よく上昇するかを調べました。

その結果、以下のパラメータを向上させることが重要であることが分かりました。

  1. ガス生産レートの増加
  2. 回収率の向上
  3. 水生産レートの低減
  4. 出砂レートの低減
  5. サブシーシステム費用の低減

(1)と(2)については、生産性を向上する、ということで経済性に結び付くことは分かりやすいと思います。

(3)についてですが、メタンハイドレート生産を強減圧法で行うと、メタンガスとともに多量の水が生産されることが分かっています。この水をどうにかして処理しなければなりません。その処理費用が経済性の負担となっています。水生産レートを低減する生産手法がもとめられます。

(4)については、メタンハイドレートを含む地層が未固結堆積層であることに由来します。未固結のため、メタンガスや水とともに砂が生産される出砂という現象が起きます。生産された砂は開発システムに悪影響を与え、経済性を悪くします。出砂に対する処置については、石油・天然ガスの既存技術である程度対応できますが、固結層に存在する石油・天然ガスに比べ、メタンハイドレートの場合は出砂の量が多くなります。メタンハイドレート生産に適した出砂対策を考えなければなりません。

(5)のサブシーシステムですが、サブシーシステムとは、海底面から海面までに設置する機器を指します。メタンハイドレート生産は生産性が悪いことから井戸数が増えます。すなわち、その分、サブシーシステム内の機器・設備も増えることになります。したがって、サブシーシステムのコスト削減が経済性を向上させる大きなパラメータとなっています。

以上、感度分析で抽出された課題はすべて、フェーズ2の課題となっています。

また、海洋産出試験を実施することで、より実際的な数値(パラメータ)を入手して、経済性評価の精度を向上させることもフェーズ2の重要な課題となっています。