メタンハイドレート探査と資源量評価

「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」のフェーズ1では、モデル海域でのメタンハイドレートを探査する手法の確立と、モデル海域とした東部南海トラフ(静岡県沖~和歌山県沖)のメタンハイドレート原始資源量調査が実施されました。

地震探査

石油・天然ガス探鉱で、石油・天然ガスを含む地層の分布を調べるのに利用されているのが、地震探査法です。「地震」と言っても、自然界で起こる地震を使った探査ではありません。

地震の様な振動を人工的に発生させ、その振動を利用して地質探査を行うものです。この振動は音波なので、音波探査ということもあります。

使用する音波は本物の地震に比べてエネルギーが小さく、海中で圧縮空気を開放することによって発生させます。空気を使って音波を送り出す機器のため、エアガンと呼ばれています。

海中で発生した音波は、海中→海底→地層中と伝わっていきます。音波はどんどん地層中を伝わるだけでなく、海底や地層と地層の境界で反射して、また海中に戻ってきます。

この戻ってきた音波をストリーマーケーブルと呼ばれる受振器で記録することにより地層の状態を間接的に把握するのが地震探査法です。

地震探査法によって、地層の重なり方を把握することができますが、そこに石油や天然ガスなどの特異な物質(流体)があると、特有の反射記録を示すので、石油や天然ガスの探査に用いられます。

メタンハイドレートを探すのも、この地震探査法が有効と考えられています。

1960年代後半もしくは1970年代前半にかけて、地震探査記録の中に通常の地層の重なり方では説明できない「線」が現れることが知られていました。

海底に並行して現れる記録なので「BSR(Bottom Simulating Reflector:海底擬似反射面)」と呼ばれていたのです。

そして、BSRはメタンハイドレートの存在を示す反射面であることが、その後の研究により分かってきました。

地震探査法の概念
– 地震探査法の概念 –

BSR

BSRの特徴は下記の通りです。

  • 周辺の順序良く重なった地層層理面記録とは関係なく延びる音波反射面
  • 海底の反射記録に並行
  • 通常の地層反射面とは反射の性質が異なる(専門用語では位相が逆転している)

このBSRの正体は当初、まったくの不明でした。しかし、1971年コロンビア大学ラモント・ドハーティ地質観測所のStoll氏らが、BSRと天然メタンハイドレートの関係を示唆しました。すなわち、BSRが天然メタンハイドレート層の最下部を示すのではないかということです。

その根拠となったのは、メタンハイドレートの分解する温度・圧力と、BSRが存在する周辺地層の予想温度・圧力がほとんど一致したからでした。すなわち、BSRより上の地層にメタンハイドレートが存在し、BSRより下の地層にはメタンハイドレートが存在しないために現れる「線」として認識されるようになったのです。

海洋の天然メタンハイドレートは水深500m以深に存在するので、実際に海洋の天然メタンハイドレートを回収することは困難です。したがって、海洋のメタンハイドレートの分布図は、ほとんどの場合BSRの分布を示しています。

海洋のメタンハイドレートを探すには、まず、地震探査法によりBSRを見つける、が第一歩となります。

地震探査記録に見られるBSR
– 地震探査記録に見られるBSR –
これまでのBSR分布図(2000年)
– これまでのBSR分布図(2000年) –

その後の掘削調査により、BSRが認められる海域でメタンハイドレートが回収され、「BSRの存在=メタンハイドレートの存在」という考え方が定着しました。

我が国においては1999年度海上基礎試錐「南海トラフ」において、BSRが発達する海域で砂層の中に含まれるメタンハイドレートが発見されました。

そして、MH21のフェーズ1内で実施された2003年度海上基礎試錐「東海沖~熊野灘」の結果により、BSRとメタンハイドレートを含む層の関係が明らかになってきたのです。

基礎試錐「東海沖~熊野灘」

2003年度海上基礎試錐「東海沖~熊野灘」の概要は以下の通りです。

  • 東海沖~熊野灘(静岡県沖~和歌山県沖)に分布が予測されるメタンハイドレートの産状を確認することを目的とした。
  • 作業期間は、2004年1月下旬から 5 月中旬。
  • 東海沖~熊野灘海域の 7 エリア 16 地点で32 坑を掘削。
  • 対象水深は約 700-2,000m 、掘削深度は海底面から 250-400m。
  • 掘削船としてライザーレス掘削船のJOIDES Resolution号を使用。

 

基礎試錐「東海沖~熊野灘」
基礎試錐「東海沖~熊野灘」

基礎試錐「東海沖~熊野灘」で実施した項目は以下の5つに分かれます。

    1. 掘削同時検層( LWD: Logging While Drilling )

掘削を行いながら刃先の近傍につけたセンサーにより地層を検査し、メタンハイドレート層の有無や賦存状況を調査しました。

    1. ワイヤーライン検層

掘削後、ワイヤーに吊るしたセンサーにより地層を検査し、メタンハイドレート層の有無や賦存状況を調査しました。

    1. コアリング(地層採取)

メタンハイドレート層や上・下位の地層を既存の装置(コアラー)や日本が独自に開発したPTCS(Pressure-Temperature Core Sampler: 圧力・温度維持コアサンプラー)を使用して採取しました。

    1. 実証実験

将来のメタンハイドレート生産試験に必要となる、掘削の基本技術である泥水技術、セメンチング技術、水平坑井掘削技術などを実証するための実験、及び坑内各パラメータの測定を行いました。

    1. 地層温度計設置

メタンハイドレートは低温高圧で安定して存在します。特に温度は重要な要因となります。これまでメタンハイドレートを含む地層内の温度分布はよく分かっていませんでした。そこで、海底面から下の地層温度分布を測定する光ファイバー式の温度計を独自に開発し、ワイヤーライン検層終了後坑井内に設置しました。

高品位メタンハイドレート層の発見

この掘削調査の検層結果により、メタンハイドレートを多く含むと考えられる地層が検層結果により見つかりました。メタンハイドレートを含む地層は、含まない地層よりも「比抵抗」という物性が非常に高い値を示します。

検層により、非常に高い比抵抗値を示す地層が多数発見されました。そして、その厚さは、最大で105mに達しました。高い比抵抗値を示す地層に対してコアリングを実施し、実物を採取しました(採取された試料は「コアサンプル」と呼ばれます)。

採取された地層は一見普通の砂のように見えますが、ゴマ塩の塩のように白い粒が含まれていました。そしてその地層を水の中に入れるとメタンガスが発生したのです。

地層の中のゴマ塩の塩の部分はメタンハイドレートの小さな粒であり、水に入れることによってメタンハイドレートが分解してメタンガスが発生したのです。

採取されたメタンハイドレートを含む地層を水に入れると大量のメタンガスが発生した。
採取されたメタンハイドレートを含む地層を
水に入れると大量のメタンガスが発生した。

その後の分析により、この地層は砂質層の砂粒子と砂粒子の間にメタンハイドレートの粒が含有されているメタンハイドレート層であることが分かりました。砂粒子と砂粒子の間を孔隙と呼ぶので、「孔隙充填型メタンハイドレート」と呼びます。

更なる分析により、このタイプのメタンハイドレート層は主に砂質層に含まれることが分かったため「砂質層孔隙充填型メタンハイドレート層」と呼ばれるようにもなりました。

孔隙の体積に対するメタンハイドレート体積をメタンハイドレート飽和率と呼びますが、詳しく分析したところ、最大80%程度のメタンハイドレート飽和率を示すことが分かりました。「メタンハイドレート品位が高い」地層ということになります。

孔隙充填型MH
孔隙充填型MH

メタンハイドレート濃集帯探査手法の確立

掘削調査では、砂質層孔隙充填型メタンハイドレート層の分布は縦方向しか分からず、横方向の広がりは分かりません。横方向の広がりが分からなければ、その海域にどの程度の量のメタンハイドレートが存在しているかを推測することはできません。

われわれが知りたいのは、その海域に存在するメタンハイドレートの体積(資源としての量)です。

基礎試錐「東海沖~熊野灘」が終了した後、基礎試錐前に取得した地震探査データを見直し、再解析して砂質層孔隙充填型メタンハイドレート層の広がりを三次元的に捉える手法の確立に挑みました。

地球物理学、地質学、堆積学、地球化学の研究者・技術者が総動員され、この大きな課題に挑んだところ、ついに、その手法を確立することができたのです。

そして、厚く広く分布する砂質層孔隙充填型メタンハイドレート層のことを「メタンハイドレート濃集帯」と呼ぶこととしました。メタンハイドレート濃集帯は現在の技術で開発可能性を持つ鉱床と考えられています。

メタンハイドレート濃集帯のような大規模な開発可能性を持つメタンハイドレート層が発見されたのは世界で初めてです。

これまでの検討から、メタンハイドレート濃集帯の分布を地震探査データから推測するために以下の4つの指標が必須ということになりました。

    1. BSRの存在

先述の通りBSRはメタンハイドレートの存在を示すものです。まずBSRを探すことから始まります。

    1. タービダイト砂泥互層の分布

メタンハイドレート濃集帯は砂質層から構成されます。メタンハイドレートが分布するような深海では通常、砂は堆積せず泥だけが深々と堆積します。深海の砂は、陸側から流れてきたタービダイトという砂と泥の混濁流によって堆積します。タービダイトによって堆積した地層は砂と泥が交互に重なる砂泥互層を呈します。

この砂泥互層の砂層にメタンハイドレートが入りこみ、メタンハイドレート濃集帯を形成します。タービダイト砂泥互層の分布は、シーケンス層序学という考え方をもとに推測することができます。

メタンハイドレート濃集帯を探すには、シーケンス層序学の考えを駆使して、BSRが存在する海域の砂泥互層の分布を知る必要があります。砂層が多く含まれる砂泥互層の分布が予測されればメタンハイドレート濃集帯存在可能性大です。

    1. 強振幅反射波

メタンハイドレートは特殊な固体であり、堆積物を構成する粒子(例えば、石英や長石)や孔隙中に存在する水とは物性が大きく異なります。

したがって、メタンハイドレートを含む地層と含まない地層では物性が異なり、地震探査で用いる音波の反射・伝わり方が異なるため、地震探査記録上で「強振幅反射波」という形で現れます。

    1. 高速度異常

音波が海水を伝わる速度は、約1,500m/s程度です。深海の浅い所に存在する堆積物中を音波が進む速度は1,500-1,700m/s程度です。

しかし、メタンハイドレート濃集帯を形成するようなメタンハイドレート品位が高い地層では音波が2,000m/s以上で進みます。

地震探査データに特殊な処理を加え、音波の進む速度を求めて、それが周辺の地層よりも高速度であればメタンハイドレート濃集帯の可能性があります。

以上の4つの指標を満足するものが、メタンハイドレート濃集帯であると推測されます。そして、このような4つの指標を体系的に示したのは日本が世界で初めてでした。

4つの指標を用いたMH濃集帯の抽出例
4つの指標を用いたMH濃集帯の抽出例

メタンハイドレート濃集帯の抽出方法についての詳細は以下の論文をご参照ください。

Saeki, T. et. al, (2008): Extraction of Methane Hydrate Concentrated Zone for resource Assessment in the Eastern Nankai Trough, Proceedings of the 2008 Offshore Technology Conference, OTC19311.
山本晃司・佐伯龍男 (2009): メタンハイドレート資源量評価と陸上産出試験, 石油技術協会誌, 74(4), 270-279.

東部南海トラフの資源量評価

開発可能性を持つメタンハイドレート濃集帯の分布推測手法が確立されました。この手法確立により、メタンハイドレート濃集帯の容積を求めることができるようになりました。

そのメタンハイドレート濃集帯の中にどの程度のメタンハイドレートが存在するか(資源量)を推測するためには、メタンハイドレート濃集帯の品位を知らなければなりません。

メタンハイドレート品位については、基礎試錐「東海沖~熊野灘」で得られた検層結果、および、コアリング試料の分析により求めることにしました。

メタンハイドレート濃集帯中のメタンハイドレート資源量(メタンハイドレート中のメタンガス量)を求めるには以下の式を使います。この手法は石油・天然ガスの資源量を求める手法である「容積法」をメタンハイドレート用に改良したものです。

  • メタンハイドレート原始資源量=総岩石容積xネットグロス比x孔隙率xメタンハイドレート飽和率x容積倍率xケージ占有率

総岩石容積とはメタンハイドレート濃集帯の全体の容積(体積)です。

メタンハイドレート濃集帯はタービダイト砂泥互層によって構成されていますが、泥層の中にはほとんどメタンハイドレートが含まれていないことが分かっています。

したがって、砂質層のみメタンハイドレートが存在すると仮定し、砂質層の体積を求めなければなりません。メタンハイドレート濃集帯の容積をグロス、その中の砂の容積をネットとし、ネットグロス比を乗じることになります。

メタンハイドレートは砂質層の孔隙の中に存在するため、孔隙率を乗じる必要があります。

そして、その孔隙中のメタンハイドレートが存在する割合、すなわち、メタンハイドレート飽和率を乗じてあげます。これで、メタンハイドレート濃集帯中に存在するメタンハイドレートの量を求めることができます。

しかし、メタンハイドレートの開発とは、メタンハイドレートを地層中で分解させ、メタンガスを採取することです。したがって、メタンハイドレートの量ではなく、メタンハイドレートから出てくるメタンガスの量を知らなければなりません。

メタンハイドレートの理想化学式は、メタン分子1個に対して水分子5.75個となっています。この理想化学式から計算すると、メタンハイドレートが分解してメタンガスになった場合、1の体積を持つメタンハイドレートから172の体積を持つメタンガスが発生することになります(0℃、1気圧環境)。この172という数字が容積倍率です。

しかし、天然に存在するメタンハイドレートは理想化学式に従わず、1の体積に対して164-165の体積を持つメタンガスしか発生しません。

これは天然メタンハイドレートを形成するかご状構造のケージの中すべてにメタン分子が入っているわけではないからです。ケージの中にどれだけメタン分子が入っているかどうかが、ケージ占有率です。

MH21は、モデル海域とした東部南海トラフでメタンハイドレート濃集帯を10以上見つけ、それぞれの濃集帯中のメタンハイドレート資源量、すなわち、メタンハイドレート層中のメタンガス量を計算しました。なお、専門用語でその量は、「メタンハイドレート原始資源量」と言います。

この計算は、石油・天然ガスの資源量を計算するのと同じく、確率論的に計算されています。下表の「Pmean」の値が、もっともらしいメタンハイドレート原始資源量となります。

なお、MH21では、独自の手法を使ってメタンハイドレート濃集帯以外のメタンハイドレート層中原始資源量も計算しています。

東部南海トラフにおけるメタンハイドレートの原始資源量(メタンガス換算)
東部南海トラフにおけるメタンハイドレートの原始資源量(メタンガス換算)

参考資料:「東部南海トラフMH資源量」PDF(291KB)

東部南海トラフのメタンハイドレート原始資源量計算の詳細は、以下の文献をご覧ください。
Fujii, T. et. al, (2008): Resource Assessment of Methane Hydrate in the Eastern Nankai Trough, Japan, Proceedings of 2008 Offshore Technology Conference, OTC19310.
藤井哲哉ほか(2009): 確率理論的手法による東部南海トラフのメタンハイドレート資源量評価, 地学雑誌, 118(5),

メタンハイドレート濃集帯のメタン量は5,739億m3です。この量は、日本のLNG輸入量(2011年*)の約5.5年分に相当します。約5.5年分というと非常に少ない量に見えますが、天然ガス田でいうところの大ガス田クラスの量になります。(石油・天然ガス資源に恵まれない日本において、東部南海トラフという狭い範囲だけでこれだけの量のメタンが存在すること自体が驚きなのです。)
*1,055億m3(財務省貿易統計)

なお、ここまでの計算では「メタンハイドレート原始資源量」という言葉を使ってきました。石油や天然ガスの量を示す場合には「(可採)埋蔵量」という言葉を使います。原始資源量と(可採)埋蔵量の関係は下図の通りです。

可採埋蔵量
可採埋蔵量

回収率は生産手法が決定し、実際に開発を行わなければわからない数字なので、現在は確定できません。回収率を大きくさせるメタンハイドレート生産手法を探し出し、少しでも可採埋蔵量を増やすことがMH21の課題でもあります。

新しいBSR分布図

以上のことを、以下のようにまとめます。

  • BSRはメタンハイドレートの存在を示すが、BSR上のメタンハイドレートの存在状況は教えてくれない。
  • MH21がフェーズ1で実施した研究により、メタンハイドレート濃集帯と呼ぶ開発可能性を持つメタンハイドレート鉱床を発見した。
  • メタンハイドレート濃集帯の三次元的分布を地震探査により推測する手法を確立した。
  • その手法により、東部南海トラフのメタンハイドレート濃集帯を10以上発見した。
  • 石油天然ガスの資源量評価手法である確率論的容積法により、東部南海トラフのメタンハイドレート濃集帯の原始資源量を計算した。その量は大ガス田クラスである。
  • 原始資源量に回収率を乗じたものが可採埋蔵量であり、回収率の大きい生産手法を探し出すことがMH21のこれからの課題である。

フェーズ1で行った研究により、日本周辺のメタンハイドレートについて多くのことが分かってきました。また、メタンハイドレート濃集帯という概念もできました。

MH21は日本周辺でこれまでに得られている地震探査データを見返し、下図のような新しいBSR分布図を2009年に発表しました。

新BSR分布図(2009年)
新BSR分布図(2009年)

この図の見方については以下の資料をご覧ください。

日本周辺海域におけるメタンハイドレート起源BSR分布図 (PDF 406KB)