メタンハイドレートとは何か?

燃える氷

メタンハイドレートはよく「燃える氷」と呼ばれます。人工のメタンハイドレートは確かに白く、触ると冷たい氷のような物質です。「メタンハイドレートの見た目はシャーベット状」と表現される方がいらっしゃいますが、シャーベット状というよりも氷状です。

驚くことに、この氷のようなメタンハイドレートに火を近づけると燃え始めるのです。そして、燃えた後には水しか残らないという、とても不思議な物質です。

なお、MH21が開発対象としている日本周辺に存在する天然メタンハイドレートは、人工メタンハイドレートのように真っ白な塊ではありません。下写真のように、砂質の堆積物の、砂粒子の間に挟まれて存在するため、メタンハイドレートを含む地層は白く見えず、ほとんど土のように見えます。

「燃える氷」人工メタンハイドレートを燃焼させたもの MH21が開発対象としている天然のメタンハイドレートを含む地層
(左)「燃える氷」人工メタンハイドレートを燃焼させたもの
(右)MH21が開発対象としている天然のメタンハイドレートを含む地層

メタンハイドレートとは何か?

メタンハイドレートは「メタン(methane)」と「ハイドレート(hydrate)」の2語から構成されています。メタンは「メタンとは何か?」でご説明したように、燃えるガスであり、エネルギー資源である天然ガスの主成分です。では「ハイドレート」とは何でしょうか?

ハイドレートを日本語にすると「水和物」となり、水が存在することになります。水分子がある温度・圧力環境で、かご状の構造を作ります。そのかご構造の中にメタン分子が含まれているものをメタンハイドレートと呼びます。

メタンハイドレートのように、何かの分子(ホスト分子)が分子規模の空間(かご構造)を作り、その中に他の分子(ゲスト分子)を取り込むものを包接化合物(クラスレート)と呼びます。水分子が作る「かご構造」の中にはメタン以外に、硫化水素、二酸化炭素などもゲスト分子として入り込むことが知られています。

これら様々なゲスト分子を含むハイドレートを総称してガスハイドレート(gas hydrate)と呼びます。

日本に産するメタンを含む天然のハイドレートのほとんどが、ゲスト分子がほぼ100%メタンなので、日本では慣習的にメタンハイドレートという言葉を使いますが、海外では日本と同じ成分のハイドレートであってもガスハイドレートと呼ぶことが多くなっています。

メタンハイドレートの結晶構造 三角緑はメタン分子、球赤は水分子。水分子がかご構造を作り、その中にメタン分子が含まれる
メタンハイドレートの結晶構造 三角緑はメタン分子、球赤は水分子
水分子がかご構造を作り、その中にメタン分子が含まれる。

メタンハイドレートはメタンと水だけによって構成されています。したがって、メタンハイドレートに火を近づけると、水に囲まれていたメタンが燃え、燃えない水が残るのです。

ただし、水分子が作る「かご構造」は氷が作る構造とは違います。したがってハイドレートは氷ではありません。「燃える氷」は見た目の総称であり、物理化学的には「氷」でないことにご注意ください。

ハイドレートの構造は、含まれるゲスト分子によって変化することが知られています。ゲスト分子がメタンのみの場合はⅠ型と呼ばれる結晶構造。メタンだけでなくエタンやプロパンなどを多く含むようになるとⅡ型と呼ばれる結晶構造を示すこともあります。

では、メタンハイドレートの中にはどの程度のメタンが含まれているのでしょうか?

測定する環境によって異なりますが、例えば、1m3のメタンハイドレートを分解させると、約160-170m3(0℃、1気圧)のメタンガスを得ることができます。ものすごい量ですね。

逆に、メタンハイドレートは、自身の体積の中に約160-170倍のメタンを取り込むことができるということになります。この性質を利用し、メタンを主成分とする天然ガスをハイドレート化させ、体積を小さくして効率よく天然ガスを輸送しようという試みも、天然メタンハイドレート開発とは別に研究されています。(参照:石油天然ガス・金属鉱物資源機構HP

メタンハイドレートの体積
メタンハイドレートの体積

みなさんはメタンハイドレートの実物をご覧になったことがあるでしょうか?多分ないと思います。その理由は、われわれが住んでいる環境(温度、圧力)下では存在できないからです。

ではどういった環境の下で存在することができるのでしょうか?キーワードは「低温高圧」です。

われわれが住んでいる場所の圧力は1気圧で、水が凍る温度は0℃です。メタンハイドレートは、1気圧のもとではマイナス80℃以下という低温の中でなければ存在できません。また、温度0℃のもとでは、23気圧以上という高い圧力にしなければ存在することができません。低い温度と高い圧力。すなわち、「低温高圧」が必要となるのです。

メタンハイドレートの安定条件
メタンハイドレートの安定条件

よく「メタンハイドレートは溶けやすい物質だ」と言われることがあります。しかし、これは誤解があると考えます。

メタンハイドレートを展示し燃焼させるデモンストレーションがよく行われるため、メタンハイドレートがパチパチと音を立てて分解していく様子をご覧になられた人もいらっしゃり、「ああ、メタンハイドレートは分解しやすいんだなあ」と感じる人も多いと思います。

ちょっと考えてみましょう。展示・燃焼させる場所の温度が20℃とすれば、メタンハイドレートは1気圧の環境においてマイナス80℃以下で安定だから、分解する温度より100℃以上高い環境に置かれ「分解しやすい」と言われていることになります。それはちょうど、氷を熱湯に入れて「氷は溶けやすい」と言っていることになります。

実際にメタンハイドレートは、安定する温度・圧力環境では分解しにくい物質なのです。分解しにくいため、メタンハイドレートの開発は難しいのです。

メタンハイドレートについて、下記のようにまとめてみます。

  1. メタンハイドレートは「燃える氷」と呼ばれているが、物理化学的には氷ではない。しかし、見た目が氷のため、そう呼ばれている。
  2. メタンハイドレートは、水分子が作るかご構造の中にメタンを閉じ込めた物質である。
  3. メタンハイドレート1に対して、160-170倍(0℃1気圧)の体積のメタンが含まれている。
  4. メタンハイドレートが存在する環境は「低温高圧」。

自然界の天然メタンハイドレート

メタンハイドレートは「低温高圧」で存在することができます、すなわち、「温度が低い、かつ、圧力が高いところ」となります。定量的には以下のとおりです。

  • 1気圧下でマイナス80℃以下
  • 10気圧下でマイナス30℃以下
  • 50気圧下でプラス6℃以下
  • 100気圧でプラス12℃以下

陸上のメタンハイドレート

陸上で温度が低いところを考えるならば、北極や南極の近くの土地になるでしょう。ただし、メタンハイドレートは1気圧のもとではマイナス80℃以下の低温でなければ存在できません。極寒の極地方でも、常時マイナス80℃以下になることはありえません。

しかし、圧力が高くなれば、温度が多少高くてもメタンハイドレートは存在できるので、地層の重みがかかる地層中にメタンハイドレートが存在することができる可能性があります。

ところが、一般的には地球上では、地下へ行けば行くほど温度が高くなっていきます。これを地熱と言いますが、通常の場所ではこの地熱のため、陸上がいくら寒くても地層中の温度は高くなり、メタンハイドレートが存在できない環境になってしまうのです。

しかしながら、極地方には永久凍土層(えいきゅうとうどそう)という地層が存在するところがあります。永久凍土層が発達する地域では、地表面から数100m地下まで、凍った地層が存在します。地層が凍っているので、地下数100mまで0℃以下の低温が続きます。この永久凍土層が存在する地帯では低温高圧が実現されるため、メタンハイドレートが存在できるようになります。

陸上のメタンハイドレート
陸上のメタンハイドレート

カナダのマッケンジーデルタ地域は、永久凍土層が広く分布し、なおかつ、メタンを主成分とする天然ガスが周辺に存在するため、メタンハイドレートが存在する絶好の条件を満たしており、天然メタンハイドレートを含む地層が発見されています。そして、MH21は、メタンハイドレートの生産試験である陸上産出試験を2002年/2007年/2008年の3度実施しています。

「永久凍土層」。陸上のメタンハイドレートは、このキーワードのもと存在することが可能なのです。

海洋のメタンハイドレート

メタンハイドレートが存在できる低温高圧の条件をもう一度見直すと、「50気圧下でプラス6℃以下」とあります。低温と言っても、圧力が高くなればプラスの温度、すなわち、氷でなく水が普通に存在する温度でもメタンハイドレートは存在することができます。そして、海洋においてこの環境を実現する場所が、水深500m以深の深海底面の下となります。

水深500m以深の深海底では、水圧のため圧力が50気圧以上になります。また水温は水深とともに低くなり、最終的には海底付近で4℃程度になり、メタンハイドレートが存在できる環境となります。そして、水深が深くなればなるほど圧力は高くなるので、水深500m以深であれば、海底面付近はメタンハイドレートが存在できる条件が整うのです。では、海底の下の地層中はどうでしょうか?

先にご説明したとおり、地熱のため地下深くなればなるほど温度が上昇していき、ある程度の深さに達すると、圧力が高くなるもののメタンハイドレートが存在できない温度になってしまいます。海底から、メタンハイドレートが存在できる最大の深度(BHSZ: Bottom of Hydrate Stability Zone)までを「メタンハイドレート安定領域」と呼びます。この安定領域の厚さは水深や海域によって異なりますが、東部南海トラフ(静岡県沖~和歌山県沖)ではおおよそ400m程度となっています。

注意していただきたいのは、この安定領域すべてにメタンハイドレートが存在するわけではない、ということです。様々な海域の調査が進むにつれ、海底付近だけに存在する海域、BHSZの付近にだけ存在する海域、BHSZから上にある程度の厚さの鉱床を持つ海域などが見つかっており、その状況は複雑です。

「深海底下、数100m」。海洋のメタンハイドレートは、このキーワードのもと存在することが可能なのです。

そして日本には大規模な永久凍土層が存在しないので、メタンハイドレートは海洋にのみ存在します。

海洋のメタンハイドレート
海洋のメタンハイドレート

天然メタンハイドレートの存在環境について以下のようにまとめてみます。

  • メタンハイドレートが陸上で存在する場所は、永久凍土層が発達している地域である。
  • メタンハイドレートが海洋で存在する場所は、水深500m以深の深海底面の下、数100m程度の地層中。
  • 日本に大規模な永久凍土層は存在しないので、日本のメタンハイドレートは海洋のみに存在する。

下図はこれまで世界でメタンハイドレートが発見・分布予測されている場所を示しています。

ガスハイドレート世界分布図